無駄を所有せず、実生活でも潔く生きる、樹木希林さんのファンは多いと思いますが、私もその一人。樹木希林さんは、一目でも会いたい、その存在に触れたいと願う女性でした。
「こういう小さな映画館は、私が子供の頃、外でゴザを引いた上映会を思い出すわね、スクリーンは白いシーツなの、風が吹くと画面が揺れるのよ。小さな映画館は良いわねぇ。ござで見たのよ。風で揺れるのよ。」
希林さんの舞台挨拶の切り出しです。
「あん」は、ハンセン病を患う女性が、つかの間どら焼き屋に働きに出る物語。どら焼き屋の日常を、桜の季節の風景に乗せて描いた物語、ドリアン助川氏小説「あん」を、映画化した作品です。。
”不幸、かわいそう、”。
実は、不治の病を持つ人の心は、想像力豊かで自由に羽ばいている。かえって、健常者は、日常の義務や常識にがんじがらめ。
療養所という箱の中で生きる人と、箱のない世界で自由に生きているはずの人。二者のコントラストが、病理を描かずとも名演技により浮き彫りにされた作品でした。
予告編でも映る、桜の枝に手を振る場面は、私の、ぴったりと幼い頃の心象風景を映しているかのような一場面で、
映画の中で一番好きな場面でした。
手をキュッといくぶん折り曲げて、枝に向かってぴょんぴょん跳ねる。セリフも強く印象に残っています。
桜の枝に手を振る。光と、希林さんの演技が織りなすシーン。
*
風と話しながら縁側から風呂敷のマントで空を飛ぼうと試みた事、
風が強い日、風に乗って、きっと飛べると風に耳をすませた時間。
子供時代に独り世界で遊んだ思い出。
風と話すときの秘密の呪いも今でも心に残っています。
朝モヤに木の蒸気がたち上がる光。
木にそっと寄りかかる主人公希林さん演じる徳江。
風や光にこだわる河瀨直美監督の映像美。
*
撮影が終わると台本さえも処分する、
「だって私自身がゴミなんだから」。
春を前に、のがたモザイク工房も、溜まったものを整理中。
プライベートも、希林さんを見習って潔く片付けます。